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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)1321号 判決 2000年7月07日

原告

矢野明

ほか一名

被告

共和運送株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告矢野明に対し、金九〇一万五二六三円及びこれに対する平成九年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告矢野緩子に対し、金八〇五万二一六三円及びこれに対する平成九年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告らは、各自、原告矢野明に対し、金三三九八万一五七九円及びこれに対する平成九年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、各自、原告矢野緩子に対し、金三一六七万〇一九八円及びこれに対する平成九年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(本件事故)

(一)  日時 平成九年一〇月六日午前九時五分ころ

(二)  場所 大阪府豊中市清風荘一丁目五番一号先交差点

(三)  加害車両 被告髙杉朋明(以下「被告髙杉」という。)運転の大型貨物自動車(岡山一一く七〇三二)

(四)  被害車両 亡矢野陽子(昭和五一年一月二九日生、当時二一歳)(以下「亡陽子」という。)運転の原動機付自転車(豊中市ね三四九五)

(五)  態様 直進被害車両と左折加害車両の衝突事故

2(亡陽子の死亡)

亡陽子は、本件事故により、平成九年一〇月六日午前九時五分ころ、全身打撲による頭蓋・顔面挫滅により死亡した。

3(被告共和運送株式会社の責任)

(一)  被告共和運送株式会社(以下「被告共和運送」という。)は、加害車両の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がある。

(二)  被告共和運送は、被告髙杉の使用者であり、本件事故はその業務中に発生したものである。

4(相続)

原告らは、亡陽子の父母であり、相続分各二分の一の割合で亡陽子を相続した。

5(損害填補)

自賠責保険金 三〇〇〇万円

二  争点

1  事故態様、被告髙杉の責任、過失相殺

(原告ら)

被告髙杉は、交差点で左折する前後にわたり、左方の安全を確認して進行すべきところ、これを怠り、加害車両が被害車両を巻き込んで亡陽子を轢死させたものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(一) 被告髙杉は、本件交差点を左折するに当たり、左側ないし左後方を十分に確認し、減速徐行したうえで進行すべきところ、これを怠り、いわゆる逆ハンを切って、並走直進していた被害車両を巻き込んで、左前部で亡陽子をはね、左前輪及び右後輪で亡陽子を轢いて頭蓋顔面挫滅により即死させたものである。

(二) 両車両が並走していたこと

(1) 被害車両の右側面が加害車両の左サイドバンパーに接触し、被害車両が倒れかかり、路面に接触しつつ、加害車両の左前タイヤ付近で倒れた。

(2) 加害車両は、亡陽子の頭部(ヘルメット)を左前輪で轢き、更に加害車両底部に亡陽子を巻き込み、加害車両右後輪で亡陽子の頭部を轢いた。

(3) 加害車両の前輪は、車両前部から一・四メートルのところであるから、左前輪で轢いたというのであれば、直前まで両車両は並走していたとみるほかない。

(三) 徐行義務違反

(1) 本件交差点は、極めて狭い十字路であり、普通乗用自動車ですら一度停止するくらいに減速しなければ回りきれない。

(2) 被告髙杉は、長さ一一・九メートル、幅二・四九メートルの加害車両を運転しながら、ほとんど減速せずに左折している。

(3) 加害車両のスリップ痕の長さは四・三メートルであるから、左折終了時ですら時速三〇キロメートルに近い速度で走行していたことになる。

通常は、曲がり終わった時点では速度が落ちているから、交差点に進入するときには更に速度は高かったことになる。

(4) 車両は、左折の際には、できる限り道路の左側端に寄り、かつ、できる限り道路の左側端に沿って徐行しなければならないから(道路交通法三四条)、加害車両が徐行義務に違反していることは明らかである。

(四) 左側寄り不十分と大回り

(1) 加害車両は、徐行せずに時速三〇キロメートル以上の速度で本件交差点を回りきることは物理的に不可能である。

(2) それを敢えてしようとすれば、交差点手前で、いったん右側にハンドルを切って(逆ハン)、ゼブラゾーンを跨ぎ、センターラインを右側に超えたうえで、更に逆に左にハンドルを切り直して左折するほかない。

(五) 左側ないし左後方を確認していないこと

被告髙杉は、衝突後もしばらく気づかずに走行していた。

(被告ら)

(一) 被告髙杉は、本件交差点のかなり手前から左折の合図を出し、減速して進行していた。

(二) 本件事故は、亡陽子が、既に左折を開始している加害車両の左側を無理に高速度で追い抜こうとしたことが原因であり、主な原因は、亡陽子の運転方法にある。

(三) 亡陽子の過失割合は、五割を超える。

2  損害

(一) 亡陽子の損害 七三三四万〇三九六円

(1) 死亡慰謝料 一七〇〇万円

亡陽子は、本件事故当時二一歳であり、公私にわたりこれからの人生という矢先に、今回のような悲惨な事故に遭って生命を落としたもので、当人の無念さは筆舌に尽くし難く、これを金銭的に評価しても慰謝料としては一七〇〇万円を下回ることはない。

(2) 逸失利益 五六三四万〇三九六円

<1> 基礎収入 年収三四二万円

亡陽子は、本件事故当時リビングセンター株式会社に勤務し、月額二三万五〇〇〇円、賞与年額六〇万円の収入を得ていた。

<2> 就労可能年数 四六年(新ホフマン係数二三・五三四)

<3> 生活費控除率 三〇パーセント

342万円×(1-0.3)×23.534=5634万0396円

(二) 原告ら固有の損害

(1) 原告矢野明の損害 八三一万一三八一円

<1> 死体検案料等 三万三〇〇〇円

<2> 慰謝料 六〇〇万円

<3> 葬儀費用 二二七万八三八一円

(2) 原告矢野緩子の損害 六〇〇万円

慰謝料 六〇〇万円

(三) 弁護士費用 各四〇〇万円

第三判断

一  争点1(事故態様、被告髙杉の責任、過失相殺)

証拠(乙一ないし五、七の1ないし4、被告髙杉本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、別紙図面記載のとおりであり、南北方向の片側一車線の歩車道の区別のある道路(南行車線の幅員三・一メートル)に東西方向の道路がほぼ直角に交差する交差点(以下「本件交差点」という。)であり、南北道路は最高速度を時速四〇キロメートルに規制されていた。

2  被告髙杉は、加害車両を運転して、南北道路を北から南に向かい時速約四〇キロメートルで進行し、本件交差点手前約三六メートル付近で減速するとともに左折の合図を出し、本件交差点において左折を開始したところ、左側面付近に被害車両が衝突し(衝突地点は<×>1地点)、被害車両は転倒し、加害車両は亡陽子を轢過した。

被告髙杉は、左折する以前に、後方から小西亜矢子運転の二輪車であるか被害車両であるかは判然としないものの、二輪車が進行してきているのに気づいていた。

3  亡陽子は、被害車両を運転して、南北道路を北から南に向かい進行し、先行の小西亜矢子運転の二輪車を本件交差点手前約二四メートル付近で追い越した後、先行していた加害車両が左折するのに気づくのが遅れ、加害車両の左側面中央付近に被害車両を衝突させた。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、本件事故は、被告髙杉が本件交差点を左折進行するに当たり、後方から進行してくる車両の進行を妨げないようにすべき注意義務があるにもかかわらず、後続車両の動静に対する注意が不足したまま、左折進行した過失により発生したものというべきであるから、被告髙杉には民法七〇九条に基づく責任がある。

一方、亡陽子にも、先行していた加害車両が左折合図を出し減速していたのであるから、その動静に注意していれば、本件事故は回避し得たものと考えられ、この点において過失があるから、本件事故に基づく損害からその三割を過失相殺するのが相当である。

二  争点2(損害)

1  亡陽子の損害

(一) 死亡慰謝料 一六〇〇万円

本件に表われた諸般の事情を考慮すると、亡陽子の死亡慰謝料は一六〇〇万円と認めるのが相当である。

(二) 逸失利益 三九八六万三三二五円

証拠(甲四の1ないし6、六、九の1ないし4、原告矢野明本人)によれば、亡陽子(死亡時二一歳)は、大阪短期大学経営情報学科を平成八年四月卒業したこと、本件事故当時、リビングセンター株式会社に勤務し、年額三四二万円の給与を得ていたことが認められるから、本件事故がなければ六七歳までの四六年間就労可能であり、その間平均して平成九年賃金センサス産業計・企業規模計・高専・短大卒女子労働者の全年齢平均賃金である年三七一万五八〇〇円(同二〇ないし二四歳の平均賃金は二九〇万五三〇〇円)を得ることができた蓋然性を認めることができるから、これを基礎収入として、生活費控除率を四割として、ライプニッツ式計算法により年五分の中間利息を控除して、亡陽子の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、三九八六万三三二五円となる。

371万5800円×(1-0.4)×17.8801=3986万3325円

(三) 以上を合計すると、五五八六万三三二五円となる。

2  原告ら固有の損害

(一) 原告矢野明の損害

(1) 死体検案料等 三万三〇〇〇円

弁論の全趣旨により認められる。

(2) 慰謝料 四〇〇万円

本件に表われた諸般の事情を考慮すると、原告矢野明の亡陽子死亡による固有の慰謝料は、四〇〇万円と認めるのが相当である。

(3) 葬儀費用 一二〇万円

証拠(甲五の1ないし16、原告矢野明本人)によれば、亡陽子の葬儀費用は、原告矢野明が支出したことが認められ、本件事故と相当因果関係の認められる葬儀費用は、一二〇万円とするのが相当である。

(4) 以上を合計すると、五二三万三〇〇〇円となる。

(二) 原告矢野緩子の損害

慰謝料 四〇〇万円

本件に表われた諸般の事情を考慮すると、原告矢野緩子の亡陽子死亡による固有の慰謝料は、四〇〇万円と認めるのが相当である。

三  過失相殺

前記認定判断のとおり、本件事故については、三割の過失相殺をすべきであるから、前記損害額からそれぞれ三割を控除すると、次のとおりとなる。

1  亡陽子の損害 三九一〇万四三二七円

2  原告矢野明の固有の損害 三六六万三一〇〇円

3  原告矢野緩子の固有の損害 二八〇万円

四  損害填補(三〇〇〇万円)

前記亡陽子の損害額から支払済みの自賠責保険金三〇〇〇万円を控除すると、九一〇万四三二七円(原告らそれぞれについて四五五万二一六三円)となる。

したがって、原告らそれぞれが被告らに請求しうる損害額は、次のとおりとなる。

1  原告矢野明 八二一万五二六三円

2  原告矢野緩子 七三五万二一六三円

五  弁護士費用

本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用は、次のとおりである。

1  原告矢野明 八〇万円

2  原告矢野緩子 七〇万円

六  よって、原告らの請求は、原告矢野明について金九〇一万五二六三円、原告矢野緩子について金八〇五万二一六三円及び右各金員に対する本件交通事故の日である平成九年一〇月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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